京都、龍谷大学から始まった「華厳経と南方マンダラ」への旅は、熊楠の紀伊田辺の家を訪ねて、ひとまず終了しました。
熊楠の奥さんと血縁のある邦子さんは、奥さん・息子さん・娘さんと12年間、ここで暮らしたそうです。
邦子さんは、今も、熊楠が使った顕微鏡を宝物にしています。
邦子さんと僕は、紀州の強い光が当たる縁側で、ゆっくりと深く心を通わせました。
幼い頃の邦子さんは、熊楠の奥さんに人形やその布団を作ってもらったそうです。
その時の生地の質まで鮮明に覚えているそうです。
僕は、どのような思いで、映像歳時記「鳥居をくぐり抜けて風」を作ったのかをお話しました。
30年前、中沢新一さんを通して知った南方熊楠が、この映画の源流の一つであることを確認できた旅であったとお伝えしました。
縁側の前にそびえる楠は、風にそよぎ、風がおとない、私はお祓いされたような心持ちとなり、目じりに涙がたまりました。
邦子さんは、この楠に、熊楠さんが今もいらっしゃるから、ここでは、悪い事言わないんです。
パンフレットができたら送る約束をして、両手で握手をしてお別れしました。
もう、すでに、なつかしい。
紀伊田辺駅で、熊楠酒を買い、特急くろしお号で、少し飲んでいます。
(プロデューサー/小笠原高志)